本研究ではキラル単一次元鎖磁石の磁気・光学・量子効果の観測を目的とし、キラル単一次元鎖磁石の合成法の確立と磁気的相互作用の制御を行った。キラリティーを有する化合物の合成には、自然分晶を利用する方法と、キラルな分子をもちいて構築する方法の2通りがある。本研究では、まず自然分晶を利用した合成手法として、架橋能を有するマンガン三核錯体(Et_3NH)[Mn_3(μ_3-O) (5-Cl-salox)_3Cl_2(MeOH)_2(H_2O)_2](H_2(5-Cl-salox)=5-chrolosalicylaldoxym)を単離しておき、銅イオンとの置換反応を行うことで、マンガン-銅ヘテロ金属一次元鎖錯体[Mn_2Cu(μ_3-O) ( (5-Cl-salox)_3 (EtOH)_2)の合成に成功した。この反応ではチャージバランスをコントロールすることで、対イオンを排除しつつ異種金属錯体を得ることができ、幾何構造的な制限から自己組織化的にキラルな一次元ネットワークが構築されることが分かった。反強磁性的に相互作用したMn_2Cu三核ユニットが6回らせん軸を持って一次元的に連結されており、ユニット間に強磁性的相互作用が働くことで、単一次元鎖磁石としての性質を示していることがわかった。この合成手法をもちいて、配位子の置換基を変換した一連の錯体の合成にも成功しており、構造のわずかな違いに基づく磁気挙動の変化を観測した。 より合理的なキラル一次元錯体の合成を目指して、キラルな2座配位子をもちいた集積型金属錯体の合成を行った結果、ホモキラルな絶対配置を持つNi_6Fe_4キラルかご状錯体を得た。この錯体には磁気軌道の厳密直交によって、強磁性的相互作用が働いており、S=8の基底高スピン錯体であることが分かった。
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