本研究では、遷移金属イオンと有機配位子とからなる球状錯体内部にタンパク質を丸ごと閉じ込ある合成手法を探索する。従来、様々な有機小分子を中央金属錯体に閉じ込めることにより特異な構造を誘起し、特異な物性の発現・特異反応が見いだされてきた。同様にして、金属錯体に包接した生体分子においても、全く新しい構造生物学的知見を見いだすことができると考えられる。 本年度、まず、タンパク質を有機配位子に導入する手法の開発を行った。遺伝子変異により末端に反応活性アミノ酸残基を持つタンパク質を用いれば、良好な収率でタンパク質を有機配位子に導入できることを見いだした。また、導入反応条件として穏和な条件を選ぶことで、タンパク質を立体構造を崩さずにすむことが明らかになった。 次に、タンパク質を導入した配位子と、無導入の配位子の2種類を混合して用いることでタンパク質を内包する錯体の調製を行った。2種類の配位子と、遷移金属イオンとの当量比、濃度、溶媒を検討し、確かにタンパク質を内包した錯体が得られたことを見いだした。核磁気共鳴分光法による錯体の拡散係数の評価を行ったところ、大きさが異なるために違う拡散係数を持つ錯体内にタンパク質を内包した場合、タンパク質由来の核磁気共鳴信号も錯体と同じ拡散係数を示すことがわかった。すなわち、タンパク質が錯体に内包され、錯体とタンパク質が一分子として一体になって溶液中に存在することがわかった。
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