金属を分子内に含む有機配位子は遷移金属と反応して複核金属錯体を形成する(M-L+M^'→M-L-M^')が、これまで知られている含金属配位子は単純な構造であり、この反応で生じる複核錯体にも新規性はなかった。本研究の目的は、新しく開発した含白金有機リン配位子と1価銅などのd^10遷移金属から異種五核または六核錯体及び有機金属高分子を合成することとその機能評価である。 研究者らが合成した配位不飽和度の高い全く新しい構造を有する屈曲型三核白金錯体は、三核白金間に橋架け配位したホスフィニリジン(-PR)基が反応サイトとなるローンペアを有していることが明らかになった。これまで解析困難であった^<31>P NMRスペクトルでは、ホスフィニリジンのシグナルが明確に低磁場側に観測され、特異的な電子状態を有していることが考察される。三核中央部分の白金とそのリン原子はそれぞれ新しい配位結合が可能な構造であり、得られた三核錯体と遷移金属塩や有機金属錯体と反応から更なる多核化を検討した。本研究の主題である屈曲型三核錯体は嵩高いトリ-tert-ブチルホスフィン(P^tBu_3)だけに特有な構造であり、トリ-iso-ブチルホスフィン(P^iBu_3)を用いると従来知られる環状白金三核錯体を与えた。すなわち、ホスフィニリジン構造は嵩高い配位子によって速度論的安定化を施す必要がある。平成20年度では、遷移金属塩との反応性を追求するだけでなく、配位不飽和度の高い多核金属錯体の特徴を生かして、有機分子のC-H結合やN-H結合活性化を鋭意検討する。
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