本年度は、(1)MMX錯体の鎖内構造変化に伴う物性パラメータの第一原理計算、(2)正確な物性評価の為の構造最適化法の開発、の2点を行った。(1)に関しては、X線構造解析の構造から金属-ハロゲン距離など構造パラメータを仮想的に変化させた構造において、第一原理計算を実行した。得られたエネルギーなどから、J、t、U値などの相互作用パラメータを第一原理計算により算出した。そして、それらの相互作用パラメータと構造パラメータとの相関図(相図)を作ることに成功した(雑誌論文1)。これにより、化学結合長などの変化といった構造パラメータの違いが、電子状態および物性にどのように反映されているのかを明らかにした。これらの計算結果は、MMX錯体に於ける物性発現機構の解明に寄与する物と思われる。尚、本研究に関連して、第87春季年会に於いて優秀講演賞を受賞している。(2)に関しては、錯体構造の正確な算出が正しい物性の評価につながる事から、比較的計算機コストの少ない非制限ハートリーフォック法あるいは非制限密度汎関数法で、より正確に構造最適化が行えるよう、手法の開発を行った(雑誌論文2、3、4)。本手法は、ジラジカルおよびポリラジカルの低スピン状態に於ける非制限計算で問題となるスピン混入現象を、スピン射影法を用いてうまく取り除きながら、構造最適化を行うというものである(スピン射影構造最適化(AP-opt)法)。これにより、少ない計算機コストでより正確な構造が求められたのみならず、従来の非制限法による構造最適化でのスピン混入誤差の程度を定量的に明らかにする事に成功した。本手法の開発により、金属タンパク質の活性中心のように構造が実験により正確に求まらない錯体に於いても、構造を求め物性計算を行う事を可能とした。尚、本研究に関して、ICCMSE2007国際会議に於いて招待講演を行った。
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