研究概要 |
一次元と二次元の境界領域にある梯子(Ladder)系は、構成する一次元鎖の本数に系の電子状態が大きく依存すること(偶奇性)や、キャリヤードーピングにより超伝導性が発現することが理論的に予測され、これまで銅酸化物系を中心とした研究により、これらの予測が正しく、興味深い物性が数多く発見されてきている。しかしながら、酸化物系では構造的な自由度が小さいために、系を支配する重要な物理パラメータ(電子移動積分t、オンサイトおよび隣接サイトクーロン斥力:U,V、電子-格子相互作用Sなど)を制御できない上に、Ladderを構成する一次元鎖の本数を制御するのも難しい。 そこで申請者は、構造的自由度の大きな一次元系を複数本連結することが可能であれば、先に述べた銅酸化物Ladder系では不可能な物理パラメータの系統的な制御が可能になり、全く新しい電子相の発見につながると考え、ハロゲン架橋一次元金属錯体(MX-Chain)を有機配位子により連結した、新しい梯子系物質である二本鎖型MX-Ladder錯体を設計、合成した。 合成したMX-Ladder錯体においては、中心金属の価数が二価と四価が交互に配列する電荷密度波(CDW:Charge-Density-Wave)が一本の鎖内に形成され、二本鎖梯子内では逆位相に整列した逆位相CDW状態であることが明らかとなった。また梯子の横木に相当する架橋配位子のサイズを変化させることによって、逆位相CDW状態の相関を制御できることもわかった。 これらの結果はいずれも、梯子系における新しい電子状態の発見であり、基礎科学的に大きな意味を持つと考えており、今後さらに梯子型MX錯体の構造および電子状態制御を行うことで、新しい材料開発につながると期待している。
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