本研究は、タンパク質等の生体分子が実際に生きて存在する水環境下での生体分子周辺の水の構造および水との間に働く相互作用(水素結合など)をリアルタイムで追跡することで、タンパク質の構造と機能発現におよぼす水の影響について速度・分子論的に解明することを目的としている。二次の非線形光学現象にもとづくSFG分光法は、反転対称性の欠如をもつ界面(表面)のみの情報を選択的に得ることが可能な振動分光法であり固体/液体および液体/液体界面の水のプローブには従来の分光法と異なりバルクの水の影響を考える必要がないため、SFG分光法が適している。本年度は、カルシウム受容性タンパク質のひとつであるカルモジュリンを固体基板上へ固定化させ、カルシウムイオン存在下でのタンパクの構造変化に伴う周囲の水の構造をSFG分光法により評価した。カルモジュリンがカルシウムイオンと結合することでカルモジュリン周囲に配向していた水分子の水素結合性が弱くなることを示唆する結果が得られた。これは、疎水性部位の露出により水分子の配向性が乱れたことに起因するものと考えている。同様な測定をマグネシウム存在下でも行ったが、マグネシウムイオンの添加による界面水の構造変化は観測されなかった。以上の結果から、今回観測された結果はカルシウムイオンとの結合によって引き起こされたカルモジュリンの構造変化によるものであることが明らかとなった。
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