研究概要 |
可能な限り簡便かつ迅速な分析法の開発は,今日の分析化学における重要な課題の一つである。高性能薄層クロマトグラフィーは, 複雑なマトリクスから霞的成分を分離できる高い能力をもち, かつ結果を一目で確認できる数少ない手法の一つである。本研究では, スポットの色から金属イオン種の同定を, 色の濃淡から濃度情報を得ることができる手法の開発を目的とした。金属錯体溶液を薄層プレートに導入してクロマトグラフィー分離を行うと, 特定の金属錯体が有色あるいは発蛍光性のスポットとなって現れるので, この性質を積極的に利用すれば特定の金属イオンに対する選択性の向上につながる。先に, 上記のモチーフに適した検出試薬の探索を行ったところ, テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィン(TCPP)が, 亜鉛(II)やカドミウム(II)イオンの検出において優れていることが分かった。亜鉛,銅, カドミウムおよび水銀の各錯体は, 黄, 赤, 青紫, 赤紫, および橙色のスポットとなって現れ, 鉄, コバルト, ニッケル,鉛錯体は分離の途中でスポットが消失した。従って,ODSシリカプレート上で黄色のスポットを与えるのは, 遊離のTCPPを除いて亜鉛錯体のみであり, 色の種類からただちに目視で亜鉛錯体を識別できた。また,亜鉛錯体は発蛍光性でもあるので, 色の濃淡と微弱蛍光の強弱を併用することで事実上3桁という広い目視定量範囲を持つことが分かった。 亜鉛および銅錯体の色の違いは,ソーレー帯の吸収波長の違いが反映したものであるが,カドミウムまたは水銀イオンの存在によって出現する青色は, 本実験操作ではTLC分離後に初めて観測されるものであり, 極めて興味深い現象である。亜鉛やカドミウムイオンは, 化学分析法では選択性の確保が比較的難しい元素である。今後これらの現象を利用することで十分な選択性を持った実用性高い検出キットの実現が期待できる。
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