本研究では、酵素を1分子のスイッチと見立て、その活性を可逆的にON/OFF制御できるシステムの構築と、そのシステムを用いた分析、更には酵素の阻害剤のスクリーニングに関する研究を展開してきた。具体的には、1)新規酵素固定化担体の開発、2)酸性ウレアーゼ阻害剤のスクリーニング、3)金属酵素を用いたコファクターセンシングである。 1)に関しては、骨格にアミノ基を有する新規なモノリスシリカの作成方法を開発し、固定化担体として、酵素を高密度で集積できること、微量の試料を迅速かつ高感度に分析できること等の有用性を例証した。2)に関しては、1)で開発した固定化担体に酸性ウレアーゼを固定化、フローシステムに組込んだ。活性を評価した後、阻害剤と作用させ活性を消失させ、再度基質を注入して活性の回復を評価することにより、阻害剤の評価を行った。このように、酵素活性のON/OFFを評価して、薬剤の持続性を容易に評価できるシステムを用いて、市販生薬を対象にスクリーニングを行い、ダイオウ中に従来の阻害剤以上に持続性のある(不可逆的に活性を阻害する)ことを見出した。また、阻害剤評価のハイスループット化を実現するため、磁気ビーズを用いてバッチ式で薬剤の持続性を評価できるシステムを構築した。3)に関しては、亜鉛(II)イオンを活性中心に持つ金属酵素の一種である、アルカリファスファターゼを用いて、補因子(コファクター)である亜鉛(II)イオンを除去、付与することにより活性を制御、付与する金属溶液の濃度と活性の回復の間の相関を用いてZn(II)イオンおよびMg(II)イオンを計測できるシステムを構築し、当該イオンの計測を行った。 本研究により、酵素を分子スイッチとして制御できる系を構築し、その活性を指標として新たな金属分析用バイオセンシングシステムを開発し、また、酵素活性の不可逆的阻害を容易に評価できる薬剤評価法を開発することが達成され、その意義は極めて大きいと思われる。
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