本研究は、ポリエチレングリコール(PEG)とポリカチオンから成るブロック共重合体とプラスミドDNAから形成される高分子ミセルを用いて、非ウィルス性遺伝子キャリアの構築を目的とした。治療の標的としては、難知性の膵臓ガンを選択した。 まず、ポリカチオンの側鎖にチオール基を導入し、内核にジスルフィド架橋を有する高分子ミセル型遺伝子キャリアを調製し、その血中滞留性を評価したところ、架橋導入率依存的に血中滞留性の向上が見られた。そして、血管新生阻害作用を有する遺伝子(sFlt-1)遺伝子を内包した架橋ミセルを担ガンマウスに投与したところ、11%導入率のサンプルにおいて最も高い制ガン活性が確認された。これらの結果から、架橋ミセルの膵臓ガン治療への有用性が示された。 その一方で、過度の架橋導入は内包遺伝子の放出を妨げるものと予想されたため、架橋導入以外の血中滞留性を伸ばすアプローチとして、ミセル表面へのさらなるPEG化を試みた(PEGの重層化)。その結果組成を最適化(PEGの分子量など)することにより、11%架橋ミセルの血中滞留性を10倍近く増加させることに成功した。このアプローチは、培養細胞への遺伝子導入効率を阻害しなかったため、血中安定性の増加に基づくin vivoでの制ガン活性の向上に期待が持たれる。今年度は、このPEG重層化ミセルの治療効果の確認を中心に研究を行う。
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