遺伝子組み換え技術を積極的に活用したタンパク質の生合成は大腸菌をホストに用いており、この発現機構ではlac operonの遺伝子調節システムが適応されている。このシステムでは転写調節分子であるリプレッサーがDNA上に結合して転写を抑制しているが、誘導物質である糖質を添加することにより、リプレッサーは誘導物質と相互作用してDNAに結合できなくなり転写が開始される。Jacobらは誘導物質としてIsopropyl β-D-thiogalactopyranoside (IPTG)が最も効果的であることを報告したが、現在でもその発現量と培養時間は社会的要求を満たしていない。最近、リプレッサーのX線構造解析が報告され、糖結合部位の構造も明らかになってきた。本研究では高分子効果によるタンパク質発現量の増加を目指し、S-グリコシドを高分子に担持させた新規複合糖質の合成を行い、タンパク質生合成系の誘導物質としての可能性を検証した。高分子支持体としては、分子サイズや官能基数の制御が容易であるデンドリマーを選択した。毒性も考慮に入れポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)を用い、S-グリコシド化とDCC-HOBt法により、目的のS-グリコデンドリマーを合成した(Gal-β-S-PAMAM)。1および2世代のチオグリコデンドリマーを調製し、Gal-β-S-PAMAMを誘導物質として用いてタンパク質発現を行った。目的タンパク質にはGFP (Green Fluorescent Protein)を用い、その発光によりタンパク質発現の確認と定量化を行った。大腸菌を培養しOD_<600>が0.6になったところで合成したGal-β-S-PAMAMを誘導物質として加え、タンパク質発現を37℃で4時間行った。その培養液にUVを照射したところ、目視にてタンパク質の発現が確認でき、誘導物質としての作用が示唆された。しかしIPTGと比べるとその蛍光強度は低かった。今後は。蛍光測定による相対蛍光強度から定量的に解析し、膜融合法なども含めて検討する。
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