本研究では、表面開始リビングラジカル重合により得られる濃厚ポリマーブラシの新規で特異な物性・機能およびリビングラジカル重合の分子設計の多様性に鑑みて、濃厚ブラシを利用した新しい生体適合性表面の創製を目指す。これまでに濃厚ブラシ表面では、同種キャスト膜や準希薄ブラシに比べてタンパクの非特異的吸着が抑制されること、またそれが濃厚ブラシの特異なサイズ排除効果によることを明らかにしている。細胞接着はタンパクの吸着層を介して起こるため、これまでの研究成果から濃厚ブラシは細胞の非接着特性が期待できる。そこで、本年度は濃厚ポリマーブラシと細胞・血小板との相互作用について検討した。具体的には、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PEHMA)ブラシの密度(グラフト密度0.007〜0.7chains/nm^2)や鎖長(グラフト膜厚にして2〜10nm)を変え、人臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の接着について蛍光顕微鏡観察を行った。なお、濃厚ブラシ(0.7chains/nm^2)は表面開始リビングラジカル重合法を、希薄・準希薄ブラシ(0.007〜chains/nm^2)は従来法であるgrafting-to法を用いて作成した。予想通り、濃厚ブラシ表面では準希薄ブラシに比べてHUVECの接着が著しく抑制されることが確認できた。 次に、濃厚PHEMAブラシ表面への血小板(ウサギ由来)の接着を検討したところ、濃厚PHEMAブラシ表面では、血小板の活性化がほとんど観察されなかった。 以上の結果は、濃厚PHEMAブラシが準希薄ブラシ表面に比べて、優れた血液適合性材料になり得ることを示唆する。
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