本研究課題は、以前の課題(課題名:「気水界面における高分子修飾微粒子膜の構造評価と界面固定化によるナノ材料の創製」)を発展させたものであり、高分子グラフト微粒子の科学をより詳細に解明しようとするものである。本研究課題では(1) in situ分光学的手法を用いた粒子膜の評価方法の確立と、(2) 高分子修飾微粒子の2次元集合体の気液界面から液液界面への展開を目標としている。(1)に関しては、固体面と異なり液面は曲率を持つため、より試料まわりの工夫が必要であると考え、今年度試料ホルダーを新たに作成し、調整を行った。(2)については、液/液界面系におけるπ-A測定は、油相の選択、装置の改造等、気/水界面に比べて多くの課題が伴ったが、昨年度我々はこれらを克服し、再現性のある測定を行うことが可能となった。今年度は、油相の種類、粒子にグラフトした高分子の種類を変化させて測定を行った。その結果、主に以下のような知見が得られた。(1)デカン/水、およびジブチルエーテル/水界面におけるポリメチルメタクリレート(PMMA)グラフトポリスチレンラテックスのπ-A等温線を測定したところ、液液界面では気水界面に比べ2割程度広い占有面積から表面圧が上昇し、その傾きも緩やかであることが明らかになった。π-A等温線の傾きは膜の弾性率に相当し、液液界面で形成される粒子膜の方がやわらかいことが示唆された。(2)高分子の熱的性質の大きく異なるn-ブチルメタクリレート(n-BMA)をグラフトした微粒子を合成し、測定を行った。この系においても気水界面と液液界面での挙動は、PMMA系と同様な傾向を示した。また、PMMA系に比べ、n-BMA系の方がπ-A等温線の傾きが緩やかで、柔らかい膜を形成していることが明らかになった。以上のように、本研究によりこれまで未知であった液液界面における高分子鎖に関する情報が得られ、総括的な議論が可能になった。
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