研究課題
自然界や生体には温度勾配が存在し、生体分子の構造や機能は温度勾配下にて維持され発現している。外場が存在することで平衡状態では観察されない輸送現象を示すが、これまで温度勾配によって誘起される分子輸送の実験研究報告は少ない。本研究では昨年度から引き続き、物理的に制御可能な非平衡実験系として高分子溶液に外場として温度勾配を作用させることで、高分子の不可逆的な分子輸送と高分子物性との関連を明らかにするための研究を遂行した。1. 流体に温度勾配を形成させ、そこで生じる分子の拡散と濃度勾配を計測するためのオリジナルな装置である熱拡散型強制レイリー散乱法を用いて、水溶性合成高分子のソレー係数測定を行った。さまざまな溶媒を用いて温度依存性の詳細な解析を実施した結果、温度勾配を駆動力とする高分子の拡散挙動が高分子セグメントと溶媒の相互作用に強く依存し、また溶媒の粘性率と高分子の分子サイズに影響を受けることを明らかにした。2. 糖類(グルコース、マルトトリオース、プルランとデキストラン)を対象に、ソレー係数の温度依存性の測定を行った。分子量の大きなプルランとデキストランの水溶液では、熱物質拡散係数が温度により正負の符号が逆転することが見出された。つまり多糖類は、周囲の環境に依存して温度勾配の高温側と低温側の両方向に拡散することを見出した。この異常な振舞いは、通常のエネルギー的な解釈だけでは説明ができず、エントロピーの寄与を考慮したモデルによる解釈が必要であることを明らかにした。3. 温度勾配がタンパク質の構造や機能に与える影響を調べるための実験系として、リゾチウムのアミロイド様凝集体を取り上げた。光散乱法により溶媒にアルコールを加えた際の測定から、アミロイド線維そして3次元網目構造(ゲル)を形成するといった段階的な構造形成のメカニズムが明らかになった。
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