ナノサイズの分子構造体に対して、人間の意図を伝え、機械的運動によって実用的なアウトプットを得る仕組み、すなわち「分子機械」の開発は、ナノテクノロジーの究極の目標であり、ナノ医療、ナノ機能性材料など幅広い分野への展開が期待されている。本研究では、DNAの特殊構造の認識、および構造変化の制御を行うことを目指し、新規キラル分子モーター誘導体の合成を行った。 はじめに、臭素を含む新規分子モーター誘導体の前駆体である五員環メチルケトンを合成した。五員環メチルケトンをMcMurry反応により二量化し、臭素を置換した分子モーターのシス体、およびトランス体の合成に成功した。また、それらの構造の相対配置は、X線結晶解析によって確認することができた。さらに、アミノ化、脱保護を行い、目的のアミノ基を備えた新規分子モーター誘導体の合成に成功した。 次に、光照射による分子モーターの回転運動を用いてB型とZ型DNAのらせん構造を制御するため、新規分子モーター誘導体とDNAとの結合を調べた。種々のDNA溶液にアミン置換分子モーターを添加しその相互作用をCDスペクトル変化、および臭化エチジウム競合実験で追跡したが、アミン置換分子モーターとDNAとの結合を示す明確なデータは得られなかった。すなわち、分子モーターの分子の嵩高さによりDNAへのインターカレーションが困難だということが示唆され、アミン置換分子モーターとDNAを直接共有結合させた系を開発する必要があることがわかった。
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