[M_1^nII_2^III(dto)_3]系遷移金属錯体では、その磁性は主に[M_1^IIM_2^III(dto)3]層によって担われていると考えられるにもかかわらず、層間に挿入する分子によってその磁気的挙動は大きく異なる。このことは層間の相互作用に挿入した分子が寄与していることを示す。これまでに電荷移動を伴うスピン転移をもたらす(C_3H_7)_4N[Fe_1^IIFe_2^III(dto)_3]のカチオンを置換することによる磁性の変化を系統的に調べた研究を行うことで、層間に挿入する分子の大きさ、π電子系の広がりなどが直接の影響を与えていることが明らかとなっている。そのため、さらに以下の方法でこの有機・無機複合錯体の磁性の起源を明らかにすることを試みた。その過程において、当初二年度目に実施予定であった比熱測定系を立ち上げ、カチオンサイズの異なる錯体に適用する試みを初年度に行い、まずは常時比熱測定を行えるようにした。また、本物質系の電荷移動を伴う磁気転移に対して誘電応答がどのように振る舞うかを観測するために誘電測定を実施し、この結果を有機物伝導-磁性体の国際会議であるISCOM 2007において発表した。物質合成の観点からは、挿入するカチオンとして固体中で分子が回転しうる極性分子を磁性層間に挿入することを試みており、外部電場による層間分子の極性反転と磁性層の電荷移動が相互作用を持つ新たな系の構築を行っている。
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