研究概要 |
2,5-ジフェニルー1, 3, 4-オキサジアゾール(PPD)は強い蛍光を示すことが知られている。そこで,PPDと高い電子供与能を持つ TTF を結合させた化合物では,PPD基の光励起によりπ共役系を通じた分子内電子移動が起き,電荷キャリヤーが生まれることで,伝導性を示すと考えられる。本研究においてはTTFとPPDを直接結合させた分子1の各種誘導体の合成を行い,諸性質を検討した。 Pd(PPh_3)_4触媒存在下,(n-Bu)_3Sn-TTF(2) と 4-bromo-4'-R-PPD (3)のトルエン溶液を加熱還流することにより,各種誘導体が赤色結晶として収率16-53%で得られた。PhCN 中の各種誘導体のCVは二段階の可逆な酸化還元波を示した。これらの電位はPPD基の電子求引性によりTTFの値に比べてより高電位側に若干シフトした。 CHC1_3中の吸収スペクトルは,3b(R=t-Bu)の場合は295 nm に,1b(R=t-Bu)の場合は315 nm と451 nm に極大吸収を示した。また3bのCHC1_3溶液に295 nmの励起光を当てたところ350 nm 付近に強い蛍光発光が観測されたが,1bの場合ではPPD基内のHOMCトLUMO遷移吸収波長である315 nm の励起光を当ててもわずかしか蛍光は検出されなかった。これはPPD基の光励起により,TTF部位のHOMOからPPD基への分子内電子移動が起こり,PPD基からの蛍光が消光されたためと考えられる。そこで1bのCHC_3溶液に,酸化剤として過剰のNOBF_4を加えることにより,化学的にTTF部位をジカチオン状態へと酸化し,TTFからPPDへの分子内電子移動を抑制した。その溶液の蛍光スペクトルを中性状態と同様に測定すると,中性状態よりも大幅に蛍光強度が増加した。これにより,この化合物の中性状態における蛍光消光が分子内電子移動によることが明らかになった。
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