研究概要 |
これまでの研究では,研究対象である酵素CLE(Cutinase-likeenzyme)の立体構造から予測される触媒反応に関与する部分(Ser85,His180,Asp165の側鎖と,Thr17,Gln86の主鎖の-NH)を考慮した原子数42〜45の分子モデルを作成し,酵素の触媒反応過程について量子化学計算による計算をおこなっていた。本年度の研究では,酵素CLEについて分子全体を考慮した大規模系による計算をおこなった。ただし,分子全体についてモデル分子に対してこれまでおこなってきた量子化学的計算手法を適用するのは,計算コストの面から事実上不可能である。そこで触媒反応に重要だと考えられるアミノ酸及びその周囲に存在する水分子(結合水)については量子化学的計算手法を用い,それ以外の部分については古典力学モデルによる力場を用いるQM/MM法を採用した(B3LYP/6-31G^<**>:AMBERレベル)。その結果,以前の分子モデルによって明らかとなったThr17の側鎖の触媒反応への関与が,大規模系でも存在しうることが分かった。このThr17の側鎖が,常に触媒反応中において,基質のカルボニル酸素に直接水素結合することで,律速過程だけではなく触媒反応全体が安定化することも明らかとなった。さらに触媒反応に結合水が加わり,Thr17の側鎖が結合水と水素結合し,触媒反応に関与する場合には,反応全体の安定化に加え,これまでの研究で律速過程であると予想されていた水分子の基質への求核攻撃反応のエネルギー障壁が特に減少することも示した。最終年度である来年度は,これまでに明らかとなったアミノ酸Thr17及び結合水の影響をより精度の高い計算手法による解析を試みる。
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