研究概要 |
グリーンケミストリーを指向した環境調和型反応の開発が強く求められている昨今,触媒反応における触媒の回収・再利用する手法の開発は重要な課題の一つである。そうした方法の一つにフルオラス二相系反応がある。すなわち,フルオラス(多フッ素化されたアルカンやそれに準ずる)溶媒と有機溶媒の二相系に於いて,フルオラス基を有する触媒を用いて反応すれば,フルオラス相に触媒が"固定"されるために,フルオラス相ごと触媒を回収・再利用できる。この観点から,種々のフルオラススルホンイミドアニオンを配位子とするルイス酸の開発を行ってきた。今回はルイス酸の中心金属として,従来の3,4,14族以外にパラジウム(II)およびタングステン(VI)といったルイス酸性の低いと考えられる金属種を有する触媒(後者はオキソ錯体)を調製し,その触媒活性を調べた。その結果,エステル化反応に於いて希土類などと同等の活性を示し,リサイクル使用も可能であった。一方,後周期遷移金属触媒の反応としてPd(II)によるClaisen転位も試みたが,反応は全く進行しなかった。また,よりフルオラス性を高める目的とPFOS問題として知られている環境問題に適応する10炭素含エーテル酸素型フルオラス配位子を新たに調製した。PFOS問題とは主に,C_8F_<17>SO_2基の蓄積性の問題で,今後8炭素スルホン酸類は使用できなくなる可能性が強い。新規配位子を用いた触媒は,従来のC_8F_<17>型配位子を有する触媒に匹敵する活性を有し,かつフルオラス二相系に於ける分配実験では従来型よりもさらにフルオラス相への分配率が高いことを見出した。さらにフルオラス鎖(C_nF_<2n+1>)の炭素数がいくつあればフルオラス相に固定できるかを調べたところ,有機溶媒にジクロロエタンを用いた際にはn=4,ジオキサンを用いた際にはn=8に境界点があり,新規触媒の高いフルオラス性を明らかにした。
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