生体内のセカンドメッセンジャーであるサイクリックADPリボース(cADPR)に対する蛍光プローブとして、ピレンとグアニジウム基を連結したピンセット型分子を合成した。ピレンは大きなπ平面をもち、水中でアデニン環とπ-π相互作用することを前年度に確認している。また、グアニジウム基はリン酸基と静電相互作用すると考えられる。環状のcADPRを挟み込むようにするために、イソフタル酸のカルボキシル基に、アミド結合でピレニル基とプロピルグアニジウム基を修飾した。このピンセット型蛍光プローブは、水溶液中では殆ど蛍光を発しなかったが、カチオン性界面活性剤である臭化トリメチルアンモニウム(CTAB)のミセル水溶液中では蛍光が観測された。この蛍光プローブ/CTABミセル水溶液にcADPRを添加すると蛍光強度が増大したが、cADPRの加水分解物であるADPリボース(ADPR)や、cADPRの前駆体であるNAD^+に対しても、同程度の変化が見られた。したがって、蛍光強度の増大は、アニオン性のcADPRがCTABミセル表面に集積し、ミセル内の蛍光プローブの微視的環境が変化したためで、選択的な応答ではないと推測された。次に、フェニルボロン酸を修飾したナフトールを2個連結した新規ピンセット型蛍光プローブのcADPRに対する応答を調べた。このプローブは、エタノールとリン酸緩衝液の混合溶媒中ではあるが、cADPR添加に対し蛍光強度の減少を示し、ナフトールがcADPRのアデニン環とπ-π相互作用していることを示唆した。ADPRやNAD^+に対する応答は、cADPRに対する応答と比べて小さく、このプローブは、cADPRとADPR、NAD^+の立体構造を区別していると考えちれた。
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