生体内において金属イオンは様々な生理的反応に関与しており、必須なものであると同時に、その種類や濃度によっては有害な働きを示すものもある。そのため、生体内では金属イオン濃度は精密にコントロールされ、生命活動が維持されている。蛍光プローブは細胞内外に作用する分子の働きを生きたままの状態で捉え生体内のダイナミクスを可視化し解析できるツールであり、各種金属イオンに対応するプローブ分子の開発が重要な研究課題となっている。平成19年度は、各種蛍光プローブの合成と機能評価を中心に研究を進め、次のような研究成果が得られた。まず、カドミウム蛍光プローブでは、7-メチル-4-アミノクマリンを蛍光骨格として有する6座配位子CadMQの合成を行った。CadMQは、水溶液中においてカドミウムと結合し、20nmもの大きな短波長シフトが観測された。高い蛍光量子収率やカドミウムイオンに対する強い親和性、およびカドミウムイオンの選択性などから、CadMQは生体応用するうえでの十分な機能を有していることがわかった。また、平成19年度は銀イオンの蛍光プローブの開発にも着手した。チオエーテル配位子を有するロサミン型蛍光プローブを合成し、物性の評価を行ったところ、銀イオンに対し特異的に蛍光応答を示し、配位に伴って蛍光強度が約35倍強くなることがわかった。また、銀錯体の結晶構造やNMRスペクトルの解析から、金属中心の配位環境を明らかにした。これらの成果は、次年度の研究計画である「生細胞を用いた蛍光イメージング」に繋がるものである。
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