生体内において金属イオンは様々な生理的反応に関与しており、必須なものであると同時に、その種類や濃度によっては有害な働きを示すものもある。そのため、生体内では金属イオン濃度は精密にコントロールされ、生命活動が維持されている。蛍光プローブは細胞内外に作用する分子の働きを生きたままめ状態で捉え生体内のダイナミクスを可視化し解析できるツールであり、各種金属イオンに対応するプローブ分子の開発が重要な研究課題となっている。平成20年度は、前年度に引き続き、各種蛍光プローブの合成と機能評価を中心に研究を進め、次のような研究成果が得られた。まず、前年度に合成したカドミウムプローブCadMQを用いた細胞内カドミウムの蛍光イメージングを行った。CadMQは細胞膜透過性を有しており、共染色実験からCadMQは細胞内酸性オルガネラに局在化していることがわかった。また、CadMQを用いることで細胞内カドミウムの濃度変化の蛍光イメージングに世界で初めて成功した。次に、金ナノクラスターを用いた水銀イオンセンサーの開発に着手した。トリエチレングリコールを担持した金クラスターに水銀イオンを作用させると、溶液の色は赤から青色へと変化することがわかった。この変化は水銀イオンに特異的であり、その選択性はエチレングリコール側鎖の長さに依存していることがわかった。透過型電子顕微鏡やエレクトロスプレーイオン化質量分析による詳細な検討から、本反応は水銀イオンによる金-硫黄結合の開裂とそれに続く金クラスター間の凝集に起因していることを明らかにした。このような反応機構の提唱は初めてであり、水銀イオンセンサーとして更なる発展が期待されるものである。
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