ホタルルシフェラーゼによる立体選択的チオエステル化反応を用いた効率のよい光学活性体調製法の開発と高い立体識別能発現理由を解明することを目標とした。ルシフェラーゼはホタルの発光反応に関わる酵素として有名であるが、我々は本酵素が2-アリールプロパン酸に対して立体選択的なチオエステル化活性を有することを見出している。本研究では、ヘイケボタル由来のルシフェラーゼ(LUC-H)を標的酵素とし、本酵素がどのように基質の不斉を見分けているのかという理由の解明を目的としている。昨年度の検討で、ケトプロフェンの両鏡像体を用いた速度論的パラメータを算出、および反応中間体アナログを用いた基質アナログ-酵素2成分系での結晶化を行った。得られた結晶を用いてSpring-8でのX線照射実験を行ったところ、L5Åという高解像度にてモデル構築を行うことに成功した。 今年度は、得られた結晶構造の詳細な解析を行った。その結果、反応中間体アナログはケトプロフェン部位の不斉に関わらず共に取り込まれていることが判明した。これは速度論解析の結果を支持するものであった。以上の解析から、ケトプロフェンに対する不斉点識別は基質が酵素に結合する段階ではなく、補酵素Aが攻撃する段階であることを明らかにできた。そこで、基質アナログー補酵素-A酵素という3成分系での結晶化検討を行った。また、Amberを用いた生体分子シミュレーションにより反応中間体形成後のタンパク質の動きを予測した。その結果基質分子であるケトプロフェンの不斉の違いによって、一部の配列の動きに有意な差が生じることを見出した。さらに、本配列に対する変異導入を行いチオエステル化に与える影響を確認した。
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