研究概要 |
ホタルルシフェラーゼによる立体選択的チオエステル化反応を用いた効率のよい光学活性体調製法の開発と高い立体識別能発現理由を解明することを目標とした。ルシフェラーゼはホタルの発光反応に関わる酵素として有名であるが、我々は本酵素が2-アリールプロパン酸に対して立体選択的なチオエステル化活性を有することを見出している。本研究では、ヘイケボタル由来のルシフェラーゼ(LUC-H)を標的酵素とし、本酵素がどのように基質の不斉を見分けているのかという理由の解明を目的としている。昨年度までの検討で、反応中間体アナログを用いた基質アナログ-酵素2成分系での結晶構造解析に成功している。詳細な解析の結果、反応中間体アナログはケトプロフェン部位の不斉に関わらず共に取り込まれていることが判明した。また、Amberを用いた生体分子シミュレーションにより反応中間体形成後のタンパク質の動きを予測したところ基質分子であるケトプロフェンの不斉の違いによって、一部の配列の動きに有意な差が生じることを見出した。そこで今年度は、本部位(200Ser,201Ser)をアラニンに置換した変異体を作成しチオエステル化への影響を確認した。また、本反応に関わる基質(ケトプロフェン、ATPおよびCoASH)に対する速度論解析を行った。その結果、ケトプロフェン、ATP、CoASH共にケトプロフェンの不斉に違いによってKm値にほとんど差はない一方、kcat値が大きく違っており、この効果によって不斉識別が行われていることが分かった。またSer200,Ser201への変異導入によってチオエステル化活性は大きく低下した。速度論解析より、本変異はkcat項に影響を与えることが確認され、そのことから本部位が立体選択的なチオエステル化反応に必要不可欠な部位であることが分かった。以上の検討によって代表者は、ホタルルシフェラーゼによるケトプロフェンへの不斉点識別が、基質が酵素に結合する段階ではなく補酵素Aが攻撃する直前の段階の酵素構造変化によって引き起こされることを明らかにすることができた。
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