研究概要 |
紅色光合成細菌の一部(Rhodopseudomonas)では、生育環境の変化(特に光強度)に応答し、通常とは異なるアンテナ複合体(LH3やLH4^<注1>)を蓄積することが報告されている。これらのアンテナ複合体では、その構成部品であるオリゴペプチドとカロテノイドの組成変化が確認されている。一方、クロロフィル色素に関しては、17位の長鎖エステルがフィチル基(C20)であるもの1種類と考えられ、エステル鎖の及ぼすアンテナ複合体形成への影響についてはほとんど注意が払われていなかった。そこで、本研究では、(1)紅色光合成細菌における構成部品(クロロフィルとカロテノイド色素)の網羅的かつ系統的な分析・同定を行い、併せて細菌の光応答性の有無を検証した。その結果、クロロフィル色素には、17位エステル鎖に多様性が見られ、細菌の光応答性と相関があることを見出した。更に、未報告のカロテノイド分子種の大量蓄積も見出し、NMR等を用いたその構造決定にも成功した。次に、(2)蓄積された各アンテナ複合体の単離精製とその色素解析を行い、構成部品とアンテナ複合体の種類との相関性を検証した。その結果、エステル鎖の異なるクロロフィル色素の分布が、各種アンテナ複合体で異なることを見出した。更に(3)クロロフィル色素の17位長鎖エステルの役割を詳細に検証するため、弱塩基性条件下でのエステル交換により、クロロフィル分子へ様々な長さのエステル鎖の導入に成功し、長鎖エステルがアンテナ複合体の構造安定化に大きく寄与することを確認した。 ^<(注1)>光合成アンテナ複合体は、Light-Harvesting complexと呼ばれLHと表記される。また、クロロフィル色素に由来する最長吸収波長に基づき、LH1,LH2,LH3,LH4と分類される。通常はLH1とLH2が生合成される。
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