研究概要 |
本研究では、平成19年度の目的として、細胞核内の環境を化学的に模倣し、細胞における核酸の挙動を定量的に解明することを設定した。細胞核内は、さまざまな生命分子が高密度に存在する分子クラウディング状態にあることから、核酸の構造と熱力学的安定性に及ぼす分子クラウディングの効果を検討した。その結果、分子クラウディングによって、ワトソンクリック塩基対から形成される核酸の構造が不安定化するのに対し、フーグスティーン塩基対から形成される核酸の構造は安定化することが見出された(Nucleosides, Nucleotides and Nucleic Acids,26,589(2007))。また、分子クラウディングの効果を用いて、DNAを基質とする酵素(ヌクレアーゼ)の機能活性を制御できた(Nucleic Acids Res.,35,4086(2007))。このような細胞を模倣した環境下において、核酸の構造安定性や酵素の機能活性を合目的的に調節できたことは、平成20年度の目標である転写活性の制御につながる成果であるといえる。さらに、細胞核内に存在するヒストンが核酸と結合している部位を化学的に合成し、核酸の構造安定性に及ぼす効果についても定量的に検討した。その結果、ヒストン模倣ペプチドによって、フーグスティーン塩基対から形成される核酸の構造のみが安定化することが見出された(Nucleic Acids Symp. Ser.(Oxf),51,167(2007))。この結果は、細胞内で転写活性を制御しているクロマチン構造の状態変化に対応するものとして非常に興味深い。また、化学修飾や低分子化合物を用いて核酸の構造や安定性を制御する方法も見出した(J. Am. Chem. Soc.,129,5919(2007)、Tetrahedron Lett.,48,8514(2007))。以上のように、本年度の目標を達成し、本研究の最終的な目標である「細胞核内環境を再現するヒストン模倣ナノ粒子の作製とそれによる転写活性の制御」に向けて有用な成果が得られた。
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