研究概要 |
ヘムオキシゲナーゼ(HO)は,NADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)から電子の供給を受け,多段階の酸素原子添加反応により基質ヘムをビリベルジンと鉄イオン,一酸化炭素へと分解する酵素である。近年の酵素反応解析や結晶構造解析の進展にも関わらず,HOによるヘム分解機構には未解明な点が残る。本研究では,ヘム分解の途中段階である「ベルドヘム開環過程」の詳細なメカニズムについて,分光学的および電気化学的手法により検討した。考えられるベルドヘム開環過程の機構としては,ベルドヘムの鉄上でのO_2の活性化,もしくは,ベルドヘムのオキサポルフィリン環へのO_2のラジカル付加によって生じるオキソ架橋の開裂が挙げられる。特に後者では,ベルドヘムのオキサポルフィリン環が一電子還元されたπ-中性ラジカル体が,中間体として関与する可能性が示唆されてきた。これを検証するため,嫌気条件下で鉄2価ベルドヘムとラットHO-1の複合体を調製し,電気化学的に還元を行なって,環が還元されたラジカル体が生成するか否かを紫外可視吸収スペクトルにより調べた。各電位における複合体の吸収スペクトルを測定したところベルドヘムπ-中性ラジカル体の生成が確認され,ネルンストプロット解析により,HO-1に結合した鉄2価ベルドヘムのオキサポルフィリン環に対する一電子還元反応の還元電位として-0.47Vvs.NHEを得た。しかしながら,この値はCPRの補欠分子族FMN,FADや補酵素NADPHの酸化還元電位よりも0.1V以上低いことから,HO-1に結合した鉄2価ベルドヘムの環のNADPH/CPR系による還元は熱力学的に起こりにくいことが明らかとなった。すなわち,生理的条件下におけるHOによる鉄2価ベルドヘムの開環は,オキサポルフィリン環の一電子還元ではなく,中心の鉄へのO_2の結合により開始することが示唆された。
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