研究概要 |
ヘムオキシゲナーゼ(HO)はNADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)由来の電子とO_2を用いてヘムを分解する酵素であり, ヘムはα-ヒドロキシヘム, α-ベルドヘム, ビリベルジン鉄錯体を経てビリベルジン, CO, Fe^<2+>に分解される。ベルドヘムがビリベルジン鉄錯体になる開環過程にはO_21分子と3電子が必要で, ベルドヘムのオキサポルフィリン環が一電子還元された分子種が関与する可能性がある。また, 昨年の研究結果から, ベルドヘムの鉄へのO_2配位で反応が開始すると考えられる。 今年, この反応機構の解明のため, まず, 鉄2価α-ベルドヘムーラットHO-1複合体に嫌気下でCOを軸配位させ, 光電気化学測定を行なって複合体のベルドヘムの環に対する一電子還元の還元電位を求めた。HO-1に結合したCO配位型ベルドヘムの環の還元電位は-0.41Vvs.NHEであった。この値は, 外来配位子がない場合に比べ0.06Vほど高く, CPRの各補欠分子族の酸化還元電位よりはやや低いものの, HO-1に結合したCO配位型ベルドヘムの環がNADPH/CPR系によって還元される可能性を示した。生理的条件でのHOによるベルドヘム分解においても, 鉄にO_2が配位した後, CPRがベルドヘムの環を還元して反応が進むと考えられる。 一方, 全操作を嫌気下で行なうことで, ベルドヘムーHO-1複合体を結晶化し, 立体構造を2.2Aの分解能で得ることができた。全体構造はヘム-HO-1複合体と同様であり, また, ベルドヘムの鉄に対してH_2OまたはOH-が軸配位していた。さらに, ヘム-HO-1やビリベルジン鉄錯体-HO-1複合体と同様, 遠位側には複数の水分子とアミノ酸残基から成る水素結合ネットワークが観測された。これは, ヘムへの酸素添加と同様, ベルドヘムの開環においても, このネットワークが活性酸素種の生成に必要なH^+を供与する可能性を示唆する。
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