有機薄膜トランジスタ(organic thin-film transistor (OTFT))は、シリコンを中心とする無機半導体をベースとした既存のトランジスタでは容易に実現できない優れた特徴(分子の多様性・機械的フレキシビリティー・シンプルな作成プロセス・大面積化・低温プロセス・ローコスト)を有するため次世代エレクトロニクス素子として注目されている。特に、論理回路や発光トランジスタヘの応用を目指したアンバイポーラーOTFTの開発が近年精力的に行われてきた。しかしながら、p型・n型共に高移動度を示す単一成分アンバイポーラーTFT材料は限られている。優れたアンバイポーラー特性を示す半導体材料の設計指針を得るためには、新規半導体材料の系統的な開発研究が必要不可欠である。 このような背景から、本研究ではHOMO及びLUMOレベルを独立に精密制御できる混合配位子金属錯体を系統的に設計・合成し、大気中で安定にかつ高性能で作動する単一成分アンバイポーラーTFTデバイスの創製を目指す。本年度の研究では、長さの異なる長鎖アルキル基を導入した金属錯体半導体のスピンコート法による薄膜作製・構造評価・及びTFT特性について検討を行った。PtイオンにC_<17>H_<35>基がついたビピリジン配位子及びo-キノン配位子が配位した金属錯体のスピンコート膜は高い1軸配向性を有しており、室温でも構造変化せずに安定に存在することが明らかとなった。その結果、この薄膜を半導体層として用いたTFTデバイスはp型の特性を示した。一方長鎖アルキル基をC_9H_<19>基に変えると、時間経過と共に構造転移することが分かった。よって、アルキル基長を変えることによって薄膜構造の安定性を制御できることが明らかとなった。
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