本研究では、有機安定ニトロキシドラジカルの電荷輸送能とその磁気抵抗効果の発現を目的としている。通常、TEMPOのようなニトロキシドラジカルは非常に安定ではあるが、電荷のトラップサイトとして働くためその電荷移動度は極めて低い。しかしラジカルスピン密度が分子上に広く共役した(つまり多くの共鳴構造を取り得る)分子では、ラジカル不対電子自身が酸化還元を繰り返し電荷をホッピング輸送する。特に、アリールアミンと共役したニトロキシドラジカルでは、ラジカルスピンはアミン窒素核上へも共鳴するため、隣接分子との波動関数の重なり合いが大きくなり、高い電荷の移動度が期待される。 ラジカルスピン自身の安定化、電荷移動度の向上、スピン間の強磁性的相互作用の増大、膜の安定性を分子骨格に反映させながら、一連のラジカル誘導体群を合成している。ニトロキシドラジカル誘導体の合成において、ニトロキシド基の保護・脱保護条件およびラジカル発生条件、ラジカル生成後の精製方法は非常に重要であり、詳細な検討を重ねた。ニトロキシドラジカルについて真空蒸着後に質量分析およびESR測定した結果、酸素原子が一つ脱離した分子構造に変化していた。一方、ニトロニルニトロキシドラジカルにおいては分子構造の変化やラジカル純度の低下は見られなかった。また、真空蒸着により成膜した薄膜状態と溶液状態の紫外可視吸収スペクトルからもラジカル分子の真空蒸着性を明らかにした。真空蒸着によりニトロニルニトロキシドラジカルをホール輸送層として成膜した有機EL素子においてEL発光を確認し、ニトロニルニトロキシドラジカルのホール輸送性を明らかにした。
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