本研究ではプロトンのトンネル効果が大きく寄与することが期待されるプロトンがあらわに関与したキャリア輸送現象を固体中で実現させるために、有機結晶中で高度に水素結合を形成する構造的特徴を有する有機導体の開発を試みた。 自己集積化させるための仕掛けとして、シラノール基を導入したドナー分子の合成を行った。プロトンを非局在化させる仕掛けとして導入したシラントリオール基は、その集積性の高さや得られた集積体の単結晶性の高さは、合目的結晶合成において有利な特徴を兼ね備えており注目に値する。まず、ドナー分子として、既知化合物であるジチエノジチンの合成を文献に従って行った。更に、ギ酸エチルを用いた二量化反応を行い、2つのジチエノジチンを同一の炭素上に有し、酸性度の高いプロトンを有する中間体の合成に成功した。この分子にシラノール基を導入するために、シラントリメトキシクロライドを作用させシラントリメトキサイド体の合成に成功した。 しかしながら、最終段階である加水分解の過程で溶媒や温度など様々な反応条件の最適化を行ったものの、最終生成物を安定に単離することが困難であった。加水分解の後に最終的に得られた化合物の融点は300度を超え、かさ高い置換基を導入したにも関わらずシラノール基同士が脱水重合した高分子量化合物が生成したものと考えられる。 本研究によりシラノール基は材料として安定に扱うことが困難であることが明らかとなった。
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