研究概要 |
本年度は、ヘテロ2核金属錯体の金属間電荷移動遷移(MMCT)を利用した全無機分子光材料の合成を行なってきた。その最初の成果として、メソポーラスシリカ細孔内に合成したTi(IV)-O-Ce(III)/SiO_2は、可視光域にMMCT由来の強い吸収を持つこと、そして有機物の光酸化分解反応に対して可視光応答性を示すことを見出した。その光活性は、現在報告されている環境浄化用光触媒として最大活性を示すNitrogen-doped TiO_2と比較して、可視光照射下で5倍以上の高い量子収率を示すことを確認している。これは、本提案のMMCTを利用した新規・無機分子光材料の有用性を示す明確に示すものである。同時に、これはMMCTの光励起で触媒反応を駆動させた世界で最初の報告である(Nakamura et al. JACS(communication),2007,129,9596)。 高活性を示したTi(IV)/Ce(III)/SiO_2のヘテロ金属サイトの分子構造解析ならびにMMCT光励起状態のXANES検出による反応機構の検討も行ってきた(測定はSpring-8において行なった)。本研究提案の設計指針の通り、MMCTの光励起によってCe(III)からTi(IV)への直接電荷移動が進行すること、そして外部反応基質との電子授受が可逆(触媒)的に進行することを見出している。また、これらの成果を踏まえたうえで、本年10月より「多電子移動触媒(人工酵素)との連結による光エネルギー変換反応への展開」も推し進めている。ここでは、新たに原子レベルで構造制御された6核(または12核)金属酸化物クラスターを合成し、それをMMCT光材料に組み込むことで"金属-クラスター"における光誘起電荷移動が現れることを初めて実証している。この発見は、本研究の最終目標である「全無機分子材料からなる人工光合成系の構築」に向けて大きな前進であるといえる。
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