本研究では生体鉱物形成作用"バイオミネラリゼーション"能を持つ球殻状超分子タンパク質、リステリアフェリチンを利用して、CdSナノ粒子-タンパク質複合ナノコンポジットを作製し、作製された半導体ナノ粒子の発光材料応用に向けた発光特性解析を行っている。 本年度は19年度実験計画に従い、発光効率改善に向けた最適粒子形成条件の探索をナノ粒子形成時の反応溶液条件を変化させて検討すると共に、作製されたCdSナノ粒子の吸収、発光スペクトル測定、および蛍光寿命測定を行う事で、作製されたCdSナノ粒子の発光特性評価もあわせて行った。 粒子形成反応時には、効率的なタンパク内部空孔中のみでのCdSナノ粒子形成の促進が重要になる。そこで、CdS形成時にイオン源となるCdイオン濃度、Sイオン濃度、保護剤としてのNH_3イオン濃度、反応温度、pHといった溶液条件を変化させ、形成されたCdSナノ粒子を透過型電子顕微鏡を用いて分析したところ、Cd:Sイオン比が1:5、NH_3濃度がCdイオン1mMに対して75mM、室温下、pH8.5の時に粒子形成率50%以上の高収率で形成される事を明らかにした。この条件下で形成されたナノ粒子は、若干多結晶状の立方晶系のCdSであることがエネルギー分散型X線分光、エネルギー損失分光、X線回折分析、X線光電子分光より示された。作製されたCdS-リステリアの吸収・蛍光スペクトル測定結果より、CdSバンドギャップ由来の吸収ピークが415nm付近に観測されたが、蛍光スペクトルにおいては600nm付近にピークを持つ長波長側にシフトした発光スペクトルが得られた。この発光成分の蛍光寿命は、十数nsと非常に長寿命な成分であった。これらのことより、蛍光スペクトル中で観測された長波長域での発光は、結晶中に存在する粒界にトラップされた励起子の再結合に起因する発光であると考えられる。
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