本研究では、有機半導体レーザに代表される次世代有機発光デバイスの実現に向けて、プロトン移動(PT)型レーザ色素(励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)を経由して発光する色素)を対象に、キャリア輸送能とレーザ活性能を同時に持ちあわせた新規PT色素の開発を主に進めている。平成20年度は以下3つの具体的なテーマを中心に研究を行った。(1) ベンゾアゾール骨格をもつPT色素を基盤として、フェニレン型やフェニレンビニレン型のπ共役置換基を導入した色素の合成を試みた。そして発光デバイスへの適用を視野に、合成した色素の発光やレドックス特性等、基礎データの収集を行った。その結果、π共役置換基の導入位置の重要性が認められ、今後の色素設計指針を得た。(2) 前年度開発に成功したESIPTを示す亜鉛-キノクサリン錯体の評価を進めた。その結果、この錯体の発光特性は軸配位子の種類によって敏感に影響を受け、中でも軸配位子がピリジンの場合に誘導放出が効率良く引き起こされることを明らかにした。加えて、デバイスの発光層適用に向けて製膜条件の検討も行った。(3)ベンゾアゾール骨格をもつPT色素に長鎖アルコキシ鎖を導入した色素を合成し、液晶中での発光特性を調べた。その結果、40wt%を超える高濃度条件下でも優れた誘導放出現象が確認できた。そこで今後はこの色素を高分子分散型液晶中に高濃度ドープし、干渉露光法によりグレーテイングを作製、低しきい値でのレーザ発振の可能性を検証する。
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