本研究では、有機半導体レーザに代表される次世代有機発光デバイスの実現に向けて、プロトン移動(PT)型レーザ色素(励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)を経由して発光する色素)を対象に、キャリア輸送能とレーザ活性能を同時に持ちあわせた新規PT色素材料系の開発を進めた。最終年度は以下3つの系に焦点を絞り研究を行った。1、π共役置換基を導入したベンゾアゾール骨格をもつPT色素の合成。2、レーザ活性を示す亜鉛-キノクサリン錯体の合成と水素結合-発光特性の相関解明。3、有機無機層状ペロブスカイトへのPT型レーザ色素導入。3の系はキャリア輸送を無機層に委ね、レーザ活性を有機層で行わせることを念頭に開発を進めた。PT型レーザ色素の導入にも成功し、光-材料強結合場研究のモデルとして有用な系を提案出来た。一方、1の結果得られた色素は、キャリア移動度の向上を目的として分子サイズを拡張させたが、それは逆にESIPT効率を低下させる傾向にあり、現状期待したような2つの機能性(キャリア輸送能とレーザ活性能特性)を併せ持つ色素の開発には至っていない。しかしながら本研究の実施によって、その代替策として有望なのが2の系のような金属錯体の利用であることを確認出来た。本系はレーザ活性を示す金属錯体として初めての例である。その発光性はESIPT反応が起こる配位子部分が担い、化学修飾等による配位子内水素結合強度の増強が発光特性の向上に繋がることを見出した。またそのキャリア輸送性は金属イオンの関与によって改善が見込める。配位子に長鎖アルコキシ基を導入することで、溶媒に対する溶解度も向上させることが出来、スピンコート法などの簡便な方法で膜形成を実現することが出来た。今後のデバイス活性層への適用が期待出来る。
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