研究概要 |
本研究では環境調和型高分子材料の創製を目指して、キチン・キトサンをオリゴ乳酸鎖で化学修飾したグラフト化物を合成し、その構造・物性を明らかにする。今年度は、まずキトサンに無水フタル酸を作用させてフタロイル化キトサンを合成し、次いでこれをN, N-ジメチルアセトアミドに溶かし、L-ラクチドとLiClを加え、窒素雰囲気下125℃で撹拌し、ラクチドの開環グラフト化を行った。その結果、ポリ(オリゴ)乳酸が枝鎖として導入されたグラフト化物が得られた。なお、フタロイル化キトサンに対するL-ラクチドの添加量を変えることで、モル置換度MS(キトサンのくり返し単位1個あたり何個のラクチル基が導入されたか)が1.4~25程度のグラフト化物が得られることをNMRデータより確認した。このフタロイル化キトサンーポリ乳酸グラフト化物(PHCS-g-PLA)は、種々の有機溶剤に可溶であった。またキトサンおよびフタロイルキトサンは200℃以下で明確な熱転移を示さないが、MSがおよそ5程度のPHCS-g-PLAは85℃程度で、MSが約25のPHCS-g-PLAは55~60℃程度で、ガラス転移を示すことが明らかとなった。一方、グラフト化に伴い引張特性も変化し、枝鎖の導入量の増加により延伸性が増す傾向がみられた。さらに、PHCS-g-PLAをアルカリ水溶液で処理すると、ポリ乳酸枝鎖の加水分解が生じうるのが認められた。なお、ラタロイル化キトサンにヒドラジンを作用させるとフタロイル基が脱離することがよく知られていることから、本研究で得られたPHCSg-PLAも、ヒドラジンと反応させることにより、キトサン-PLA系グラフト共重合体へ変換可能と考えられる。これより、原料キトサンに比べて種々の物性が改変されたキトサン-ポリ乳酸系グラフト共重合体を合成できる可能性が示唆された。
|