本研究は有機薄膜の配向性を向上することで、高い熱電性能を得ることを目的としている。前年度に行ったペンタセン薄膜の構造に関する研究結果を元に、薄膜相あるいはバルク相を主相とするペンセン薄膜の熱電性能を評価した。ペンタセン薄膜自体は電気伝導率が低いため、ヨウ素ドープを行った。得られた結果は次の通りである。 1、ペンタセン薄膜に入されたヨウ素は、I_2^<δ->、I_3^-、I_5^-、I_2の形態で存在していることを明らかにした。これはI_3^-ペンセン層間に存在しているとする従来の予想とは異なる結果である。それらのヨウ素種の存在量は、薄膜相の方がバルク相よりも少ないことがわかった。 2、薄膜相めホールキャリア密度は7×10^<20>cm^<-3>であった。これはバルク相の1/2の値であり、ヨウ素種の存在量と対応している。 3、薄膜相の移動度はバルク相よりも3倍高く、0.35cm^2/Vsであった。理論計算では薄膜相の最高占有電子軌道由来のバンド幅(603meV)はバルク相のそれ(365meV)より広いことが報告されており、薄膜相におけるホールの有効質量がバルク相と比較して小さいためであると考えられる。 4、ホールキャリア密度と移動度の違いを反映して、電気伝導率はバルク相よりも薄膜相の方が高いことがわかった。電気伝導率の最大値は45S/cm(膜厚114nm、薄膜相)であった。この値は過去の報告例の1/2であるが、ドープ方法が異なるためである考えられる。 5、薄膜相とバルク相の熱起電力はほぼ等しく約50μV/Kとたった。これは、ホールキャリア密度とフェルミ準位近傍の状態密度の大小関係が競合しているためである。 以上の結果から、薄膜相で最大の出力因子2.0×10^<-5>W/mK^2が得られ、有機物では比較的高い値を達成した。今後さらに熱電性能を向上するためには、成膜条件やドープ方法を調整する必要がある。
|