研究概要 |
総合科学技術会議において,従来のライフサイエンス,情報通信,環境,ナノテクノロジー・材料,を重点推進分野として継続し,更なる社会的貢献度が不可欠とされる一方,次世代科学技術の「芽」となる新原理・現象の発見・解明を促す基礎研究の重要性がさらに強調されている.特に世界的に死因第一位に挙げられる悪性腫瘍については,早期かつ定量的に血中マーカー物質を検出することが予後を大きく左右するため医学領域を超えた全分野的な取り組みが不可欠であることは共通認識である.現在,蛍光標識による一般的なイムノアッセイに代わり,高感度かつ非標識マーカー物質検出バイオセンサとして表面プラズモン共鳴(SPR)法が提案され一部実用化されているが,微量検出には2次抗体の導入が必要など十分な感度向上が達成されているとは言えない.本課題では,X線反射率法を用いて,基板上で起こる抗原抗体反応について,「抗体層」,「抗原層」など有機物の多層膜として捉え,抗原吸着層を選択的に評価することにより高S/N比での抗原検出の可能性を探ることを目的としている.本年度は,単分子膜状に展開した抗体に吸着する抗原を有機多層膜として評価できるかを検討した.具体的には,熱酸化SiO2膜付きSiウェハー上に抗体吸着用シランカップリング膜(APTES)を成膜,その後,抗体として肝細胞癌のマーカーである抗αフェトプロテイン(AFP)抗体を吸着させ,最後にAFP抗原を吸着した試料について,各過程で溶液から取り出し乾燥させた膜のX線反射率測定および膜パラメータ解析を行った.その結果,多層化により明瞭に反射率は変化しており,精密解析から,AFP抗原吸着に対し全膜厚の増加が明らかとなり,非標識かつ2次抗体を用いない直接観測に初めて成功した.
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