閃亜鉛鉱型の結晶構造をとるIII-V族混晶半導体において、(110)方向の面方位を有する基板上に作製される1次元量子井戸構造では、異方的な原子配列に起因して、光学遷移強度に大きな面内異方性が生じることが知られている。特に基礎吸収端の光学遷移強度異方性は1990年代に盛んに研究され、低閾値レーザへの応用などが検討された。この例のように、対称性の操作という概念を伴う(110)面量子井戸構造は、電子的・光学的特性を制御する一つのアプローチ手段であると捉えることができる。本研究の初年度では、InP(110)基板上に成長したInAlAs/InGaAs多重量子井戸構造における光学遷移強度異方性について偏光フォトリフレクタンス法を用いた実験的評価を行い、高次のエネルギー準位における光学遷移異方性の実験的検証を初めて行った。今年度は材料系を変更してInGaAs/InP多重量子井戸構造についても同様の評価を行い、量子井戸に(110)面を使用することの普遍性について検討した。測定の結果、InAlAs/InGaAsの場合と同様に広いエネルギー領域に渡って偏光異方性が観測され、その遷移強度異方性は井戸層材料のLuttingerパラメターに依存していることを確認した。また、井戸層幅に対する遷移強度異方性についても詳細な評価を行い、波動関数の直交性喪失により発現する高次のエネルギー準位が寄与する光学遷移では、井戸層材料よりもむしろバリア層材料の光学パラメターが異方性に大きな影響を与えることを示した。
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