MOSFETのゲート絶縁膜の劣化には水素が深く関わっていると考えられている。本課題では、水素のゲート絶縁膜中での挙動を明らかにすることを最終的な目的として、高い感度と高い深さ分解能を期待できるディレイラインディテクターを用いた飛行時間弾性反跳粒子検出法(飛行時間ERD)の開発、ゲート絶縁膜中の水素の深さプロファイル測定に向けて研究を進めてきた。最初に、表面に厚さ数nmの酸化膜を成長させたシリコンを試料として、ディレイラインディテクターを用いた飛行時間ERD測定を行った。大気中で表面に吸着した水分子や有機物(ハイドロカーボン)に由来すると思われる水素を検出することができた。期待した通り、ディレイラインディテクターの大きな立体角を生かして、低照射量で水素の信号を観察することができた。しかしながら、いくつかの問題が明らかになった。1つはディテクターを構成するマイクロチャンネルプレートの増幅率が位置によってかなり異なるために、検出効率も位置によって差があることである。もう1つは、現状の入射イオンのパルス化方法では水素の深さプロファイル分析における深さ分解能が数nmでしかなく、厚さ数nmの酸化膜中の水素の深さプロファイルを求めるには十分ではないことである。後者の問題に関しては、入射イオンのパルス化のためのチョッピングディフレクタの上流側でイオンビームをさらに細く絞ること、チョッピング後のスリット幅をより狭くすることによって改善しつつある。
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