MOSFETのゲート絶縁膜の劣化には水素が深く関わっていると考えられている。本課題では、水素のゲート絶縁膜中での挙動を明らかにすることを最終的な目的として、高い感度と高い深さ分解能を期待できるディレイラインディテクターを用いた飛行時間弾性反跳粒子検出法(飛行時間ERD)の開発、ゲート絶縁膜中の水素の深さプロファイル測定に向けて研究を進めてきた。弾性反跳粒子検出法(ERD)において、反跳水素粒子の収量は、反跳断面積、入射イオン数、標的試料中の水素濃度、検出器の検出効率にそれぞれ比例する。したがって、ERDによる水素プロファイル測定のためには、反跳断面積と検出器の検出効率の積が既知でなければならない。そこで、標準試料としてDLC(diamond-like carbon)を用いて、100 keVのHe+イオンを一定数照射したときの収量を測定することによって、反跳断面積と検出器の検出効率の積を評価した。一方、ディレイラインディテクターは大型(有効径120mm)であるので、さまざまな角度に反跳されてきた水素粒子を検出する。このことを考慮し、検出位置(反跳角)ごとに反跳粒子のエネルギーの飛行時間)を試料中の水素の深さに換算することのできる解析ソフトの開発を行なった。しかし、ゲート絶縁膜中の水素の挙動を明らかにするという目的は達成することができなかった。現状では水素の深さプロファイル分析における深さ分解能が10nm弱までしか得られておらず、厚さ数nmの酸化膜中の水素の深さプロファイルを求めるには不十分のままである。
|