研究概要 |
本年度は放射光照射下のGe(111)表面を走査トンネル顕微鏡(STM)によって観察した。 Ge(111)清浄表面は表面再構成を起こしc(2x8)構造をとることが知られている。この広いc(2x8)構造領域が形成された表面に放射光を照射しその影響をSTMによって直接観察した。放射光照射下の測定でも安定して原子分解能を持つ像が得られ,STM装置は本研究の測定に十分な性能をもつこと確認した。一方,放射光照射下で連続して表面を測定し続けると表面のGe原子が頻繁に移動し短時間でc(2x8)構造が壊れていくことが明らかとなった。通常のSTM観察においては原子の移動はほとんど起こらないことから,この表面原子の移動は放射光照射の影響により起こっていると考えられる。これまで放射光照射下での半導体表面の原子分解能を有した実空間観察はあまり例がなく,この結果は非常に興味深いものである。 本研究の目的は半導体表面近傍にあるドーパント原子を放射光により励起しその変化を直接観察することである。しかし本年度の研究からGe(111)表面では放射光照射による表面原子の移動が起こってしまいドーパント原子の励起に起因した変化を検出するのは難しいことが明らかとなった。今後は表面を他原子で修飾するなどして放射光による表面原子の移動などを抑え,ドーパント原子の励起のみを観測する工夫が必要となると考えられる。そのため,他種の半導体表面や表面修飾などを施した表面など放射光照射下の測定に最適な表面を選定する必要であり,目下その分析をおこなっている。
|