研究概要 |
本年度は放射光照射下のGe(111)表面を走査トンネル顕微鏡(STM)によって観察した。前年度までの研究でこの表面においては放射光照射下のSTM観察によって表面原子の移動が起こり,長時間の測定では表面の結晶性が崩れることがわかっている。今年度はこの表面の原子移動に対しての放射光の影響を厳密に測定するために,リソグラフィーによって基板に300nm程度の段差をつくり表面に放射光が照射される部分と影になる部分を物理的に作りだし,その表面を放射光照射下でその場観察した。その結果は段差の上下で大きな変化は観測されず,放射光の影響を明確にすることはできなかった。一方,基板を液体窒素で冷やした状態での測定もおこなった。その結果,低温でも原子移動は起こることがわかった。室温での結果と比較すると移動の割合は大きく変わることはなく,このことから原子移動が放射光による熱励起以外の原因で起こっている可能性が考えられる。 また,放射光を用いず,レーザー光による励起のSTMその場観察も試みた。レーザー光の場合,照射による試料表面への影響は少ないことがわかり,また原子種の違いによる強度変化が現れたSTM像を得た。しかし,以前に探針-試料間の距離を微小振動させることにより局所的な仕事関数の違いを検出したという報告がある。今回のレーザー光照射によるSTM像の変化も,探針の熱膨張に起因する探針-試料間の距離の微小変化によって局所的な仕事関数の変化を検出した可能性がある。これに関しては今後のさらなる詳細な分析が必要になる。
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