研究概要 |
反磁性物質の磁化率測定を磁気浮上を利用することによって精密に測定することを試みた.本年度においては,磁化率の温度変化と試料空間の雰囲気の影響についての知見を得ることができた.試料として有機結晶ベンゾフェノン(融点約48℃)の単結晶を用い,恒温槽を用いることで試料の温度を20〜45℃の範囲で変化させ実験を行った.試料の磁化率は,浮上に要した中心磁場から試料位置での(磁場×磁場勾配)を磁場分布計算から求めることによって見積もった. 雰囲気の影響を見極める実験として,試料周囲の雰囲気を大気と窒素の2つの場合において測定したところ,大気中においては常磁性気体である酸素の影響が顕著であり,定量的な値だけでなく,定性的な振る舞いさえも酸素の磁化率の温度変化に影響されることが分かった,特に,試料の磁化率の温度変化が酸素の磁化率の温度変化よりも小さい領域では,観測される見かけ上の磁化率が酸素の磁化率の温度変化に埋もれてしまうことが分かった.一方,窒素雰囲気の場合では,窒素の磁化率の温度変化を考慮した場合の解析と真空を仮定して求めた値において0.01%程度の違いしかないことが分かった.大気中で磁気浮上を行う場合の浮上磁場に与える酸素の影響はこれまでに指摘されていたが,酸素の有無による影響をその温度変化を含めて明確に観察したのは初めてである. ベンゾフェノンの磁化率の温度変化においては,融点である48℃よりもかなり低い40℃程度から磁化率が急激に変化し始めることが観察された.これは結晶内での分子振動がこの近傍の温度から激しくなり始めているためと推察された.また,温度変化に伴う磁化率の変化量として,最小で0.02%程度の微小な変化を本測定法により観測できることが分かった.
|