研究概要 |
欠陥が生成されたイオン結晶表面に成長する金属ナノクラスターの成長過程についてイオンビームを用いて解明することを目的として研究を行った。今年度行った研究・実験は以下のとおりである。 1. 超高真空散乱槽内に取付けたKCl結晶表面に0.55MeVの陽子を表面すれすれの角度で入射し, 散乱したイオンビームを磁場型エネルギーアナライザで検出し, 欠陥により生じたイオンビーム散乱のエネルギースペクトルと入射方位角ごとの散乱収量の変化をしらべたところ, 表面の原子列の位置が変化した, すなわち表面格子歪みが起こったと思われる結果が得られた。2. 電子線照射後の試料表面は原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面形状の解析を行った。電子線照射量が少ないときには表面原子は単層脱離がおこり, イオンビーム散乱の変化が起こる照射量領域では円形のテラスが重なり合った複雑な形状になった。3. 他者の研究報告をもとに欠陥が誘起された結晶表面のモルフォロジーのシミュレーションを行い, AFM観察結果と比較した。得られた結果はAFM観察と同様の傾向が見られ, 単層脱離の延長線上に複雑なモルフォルジーがに成されることがわかった。4. イオン散乱のシミュレーションを行い実験結果やAFM観察結果と比較することで実験結果を定性的に説明することができた。 本研究の結果から, 電子線照射により欠陥が生成された表面では欠陥が誘起した表面格子の歪みが起こっている可能性が導き出された。金属ナノクラスターの成長過程を探るうえで, またイオン結晶のナノオーダーの電子デバイスへの応用に向けて, 表面格子の歪みについての定量的な測定が必要である。実験データを蓄積し, イオン結晶に対して提案されているさまざまな原子間力ポテンシャルを用いたシミュレーション結果と比較することで, 表面格子の歪みについての定量的な測定が可能になると考えられる。
|