波のシミュレーションにおいては、計算機のメモリは高々有限であるため、計算対象とする領域を有限で打ち切る必要がある。このとき、打ち切り断面という人工的な境界が生じてしまうが、高精度の数値解を得るためには、この境界上で、反射を防ぐための境界条件である、無反射境界条件を設定する必要がある。本研究では、Lappasらによって提案されたRiemann不変量多様体の考え方を用いることで、新たな無反射境界条件の構築を目標とする。2008年度までの研究では、この考え方に基づいた無反射境界条件を実際に導出し、その安定な実装法の開発を目指して離散変分法の拡張に関する研究を行った。離散変分法は、阪大の降旗、東大の松尾らによって開発されてきた国産の数値解法であり、エネルギーの保存・散逸性を離散化後にも保つようなスキームを導出するための方法である。この方法によって導出されたスキームは安定であることが多く、本研究への応用が期待される。本年度は、流体力学への適用のために、さらに離散変分法について理解を深めるため、その理論的な側面を考察した。その結果、離散変分法でのスキームの導出過程は無限次元空間中のハミルトン力学と関わっており、離散変分法の拡張の過程で現れた内積や随伴作用素といった技術的な側面は、いずれも解析力学的に自然なものであることが理解された。また、近年、開発が盛んである離散外微分解析の枠組みについても研究を行い、離散変分法への応用を提案した。この枠組みが適用できる方程式はある程度限られるものの、これによって、様々なメッシュ上でのスキームが素直な形で記述できるようになった。
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