界面の密着・剥離特性を正確に評価するためには、ミクロな微小欠陥の挙動を3次元的に取り扱え、かつ、異材ナノ界面のマクロな特性との相関を推定できるようなマルチスケール的視点に立った計算手法の確立が必要である。19年度は、原子系と連続体系とを空間的にカップリングさせたシミュレーターを開発し、連成コードの高速化・ダイナミクス化・大規模化を達成した。20年度では、開発した分子動力学/有限要素法シミュレーターを、RWCu/SiO2系へのナノインデンテーション計算に実際に適用した。これにより、半導体デバイスの典型的界面であるCu/SiO2界面のクラック発生と進展挙動に関する原子レベルの知見を得ることに初めて成功した。本シミュレーションの結果、界面から射出される転位核生成プロセスが、界面クラック発生の引き金となっていること、また、本シミュレーションから得られた座屈による剥離モードが、ナノインデンテーション法による従来実験観測結果と定性的に一致することを示した。さらに、Ruキャップ層を使用しないcu/SiO2系へのナノインデンテーション計算との比較を行った。Ruキャップ層がある場合、一度クラックが生成すると、クラックはその後脆性的に界面を進展する。一方で、Ruキャップ層がない場合、荷重が増すにつれ、Cu膜内に多くの塑性変形プロセスが発生する。これらの塑性プロセスの蓄積により界面で発生したサブクラックは、メインクラックの先端応力場を弱め、結果、クラックの進展は強く抑制される。すなわち、高い弾性率を有するRuキャップ層を利用したナノインデンテーションが、Cu薄膜の剥離試験に極めて有用といえ、その具体的な物理的描像を本シミュレーションにより示した。
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