本研究では、単結晶微小構造体の塑性変り挙動に着目し、透過型電子顕微鏡(TEM)内で比縮試験を実施する。また、結晶学的な考察とその場観察により、寸法効果に対して結晶学的・力学的な検討を行うことを目的とする。平成20年度は、予算申請書に沿った研究内容に沿って、幅が数十nmのアルミニウム単結晶試験片(荷重軸結晶方位<110>方向)を用意し圧縮試験を実施した。バルクのアルミニウム単結晶よりも高い臨界分解せん断応力(降伏応力)が得られ、降伏後の転位運動のその場観察にも成功した。降伏後はバルク材とは明らかに異なる広範囲の容易すベり領域が観察され、その後加工硬化に転じた。その場観察から、容易すベり領域では変形帯の進展が見られ、変り帯が試験片全体に進展し終わると転位が急激に増殖する様子が確認された。これらはウィスカーで報告されている挙動と同一のものである。これらの結果から、ナノ構造体における降伏応力の上昇は、変りに必要な転位の欠乏に起因したものであることを明らかにした。この転位の欠乏は、ナノ構造体中では鏡像力の影響により転位が存在しにくいことが原因であると考えられる。比較のため、転位運動が困難なセラミック材料のTa_2O_5)、両側を硬質層で拘束された20nm厚さの銅薄膜についても変形試験を実施した。セラミック材料の場合には、寸法の異なる試験問で応力-ひずみ曲線はほぼ一致した。また、銅薄膜では拘束層の影響により拘束層が無いものに比ベて降伏応力が上昇することが確認された。これらの結果は、寸法効果に転位運動が影響しており、ナノ構造体中の転位は界面(表面)の影響を強く受けることを示唆している。
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