研究概要 |
これまでに,TiN被覆鋼に成膜後基板焼入れ処理を施すことにより,単に基板硬さが向上するだけでなく,簡便かつ効果的にTiN薄膜の密着強度を改善できることを示した。また,成膜後基板焼入れ処理を施すことにより,TiN被覆鋼の耐摩耗性が向上することもわかってきた。このような優れた効果に着目し,TiN被覆鋼の高機能化手法としての成膜後基板焼入れ処理の有効性や実用性を示すことを目的として,本年度は,特にTiN被覆鋼の摩擦摩耗特性に及ぼす成膜後基板焼入れ処理の影響に関する研究を行った。まず,炭素工具鋼SK3を基板とするTiN被覆鋼に成膜後基板焼入れ処理を行った試験片に対して,ボールオンディスク試験を実施し,TiN薄膜の摩擦摩耗特性を調べた。その結果,成膜後基板焼入れ処理により,TiN薄膜の比摩耗量が低下することや,はく離発生寿命が向上することなどを明らかにした。次に,成膜後基板焼入れ処理による耐摩耗性改善効果の発現機構の解明と,さらなる耐摩耗性向上の可能性を探るために,成膜後基板焼入れ処理の加熱過程に着目し,TiN被覆鋼の各種機械的特性と摩擦摩耗特性に及ぼす成膜後加熱の影響を調べた。加熱温度は,460℃から860℃の4種類とした。TiN薄膜の比摩耗量は,加熱処理により低下し,また加熱温度の上昇とともに低下する傾向が認められた。すなわち,成膜後基板焼入れ処理による耐摩耗性の改善効果は,成膜後基板焼入れ処理の加熱過程において発現することがわかった。硬さは,加熱温度の上昇に対して増加した後減少した。一般に,比摩耗量は硬さに依存して変化することが知られているが,本研究の範囲では硬さと比摩耗量の相関は認められなかった。一方,摩擦係数には,加熱温度に対する減少傾向が認められた。したがって,加熱処理による比摩耗量の低下の主要因は,摩擦係数の低下であると考えられた。
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