研究概要 |
CNT複合材料のCNT繊維の臨界長さの影響を調べるために,長さが揃い,かつ長尺のCNTを合成してフィラーに用いた.特に,これまでほとんど報告のない引張強さ向上への方策について調べた.まずCNTを垂直配向させて合成したCNTをポリカーボネート(PC)樹脂と複合化して,低濃度で高機能化させる方法について検討を行った.プラズマCVD法によりCNTを合成し,90,330,620μmと長さを3種類変化させて,PC樹脂に混ぜた.濃度は1.0,4.0%の2種類とした.厚さ0.3mmの薄板からダンベル試験片を切り出し,引張試験を行った.なお,TEM観察の結果から今回合成したCNTは3~4層のグラフェンシートからなるMulti-Walled CNTであることがわかった.このことからCNTの密度は約1.0g/cm^3と算出され,PCの密度が1.2g/cm^3であることから重量濃度と体積濃度はほとんど同じと考えられる. ヤング率,引張強さともに長さの影響が顕著に表れ,ヤング率は620μmのCNTを使用した場合90μmのものを使用した場合に比べて,約1.2倍になった.また,引っ張り強さにおいては,90mmの場合はほぼPCと同じであったが,620μmのCNTを使用した場合にはPCのおよそ1.5倍の約90MPaの強度を示した.破断面をSEM観察した結果,620μmのCNTの場合はほとんど全てのCNT繊維が破断面で切れていることがわかった.このことから長尺のCNTの場合は短繊維強化複合材料の臨界長さに達しており,表面修飾をしなくても完全に補強に寄与していることが明らかになった.また,CNT単体の強度を逆算するとおよそσ_<CNT>=3GPaとなった.これは従来のカーボンファイバーとほぼ同程度であり,理論値と比較すると1/10程度であるため,結晶の完全性を向上させればさらに強度が上がると考えられる. 次に,結晶の完全性の影響を調べるために,電気炉を用いて1500℃で1時間の熱処理を行うことで,ラマン分光分析によりI_D/I_Gの値が0.5程度まで向上することがわかった.このCNTを用いて複合材料とし引張り試験を行ったが,アニール前のCNTを使用した場合とほぼ同様の結果になった. 今回使用したCNTの品質は必ずしも良いとは言えないため,結晶の完全性が高く,なおかつ長尺のCNTを用いることで,これまでにない値を示すことと思われる. 超高アスペクト比のフィラーを樹脂材料に均一に混ぜることが今後の課題である.
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