本研究では、化学・医薬品工業での代表的な反応・分離操作の一つである晶析操作について、結晶製品の高度な品質予測・制御方法の構築、生産性の向上を目指して数値流動解析およびモデル実験を行った。得られた知見は以下の通りである。 (1)「撹拌翼・邪魔板・槽壁と結晶の衝突現象」に関して、数値流動解析とDEM解析を組み合わせることにより、撹拌槽内の乱流状態・粒子挙動の定量的な評価を行った。その結果、結晶の衝突頻度、衝突エネルギーは撹拌翼の回転方向に対して前面側のとくに撹拌羽根先端の上下両角、ならびに撹拌翼の回転方向と正対する側の邪魔板面のとくに撹拌翼設置高さ位置において大きな値となり、翼裏面や邪魔板裏面、槽壁におけるそれらは比較的小さいことを明らかにした。またそれらのメカニズムについて流れの速度分布、圧力分布をもとに分析した。 (2)「溶質の局所的な過飽和度の増大に起因する一次核発生現象」に関して、微粒子によるレーザー光線の散乱現象を活用した非接触計測法について検討した。その結果、ポリスチレン微粒子を用いた検定実験結果をもとに、溶液中から一次核が逐次的に発生する現象を装置外部から非接触で定量化する手法を構築した。さらに本システムを使用することで、経時的に温度を低下させる冷却晶析における一次核発生時の核発生速度は、核発生開始後いったん増加し、その後減少する傾向を示すことを明らかにした。 (3)「高懸濁濃度・高効率晶析操作条件の検討」に関して、ドラフトチューブ付き撹拌型晶析装置を用いた半回分式食塩蒸発晶析実験において、高懸濁濃度条件での最適な晶析操作条件について検討した。結晶粒径分布の分散度と結晶成長速度を併せて定量的に考慮することができる最適操作指標を構築し、本指標を用いることで加熱速度ごとの最適種晶添加条件について検討した。その結果、適切な個数の種晶を添加することで粒径分布の単峰性と高い結晶成長速度を両立させることができることを明らかにした。
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